津田和男
(Movement for Language and Culture 創設者 津田和男先生を偲んで)
日本語教育を牽引したリーダー
30年以上にわたり、津田先生は北東部日本語教師会(NECTJ)の中心的存在として活躍し、国連国際学校(UNIS)で教鞭をとりながら組織を導いてきました。1992年以降は、中等日本語教育の発展に重要な役割を果たし、地域の教師たちを支え、ローカルな教育プログラムを全米規模の取り組みへとつなげていきました。
そのリーダーシップは北東部にとどまりません。津田先生は SAT II、日本語AP、ACTFL、そして国際バカロレア(IB)プログラムにも関わり、全米における日本語教育の標準を高め、日本語を「世界の言語」として発展させることに寄与しました。
2022年には、長年の功績が称えられ、AATJ(全米日本語教師会)より Lifetime Achievement Award が授与されました。
献身、カリキュラム、そしてコミュニティ
津田先生は、「教師は教室の外の世界ともつながり続けなければならない」という強い信念を持っていました。その 生涯の中で、複数の非営利団体を設立し、独自の教材開発・出版に取り組みました。代表的な季節シリーズ『春一番』『銀河』『秋祭り』をはじめ、ワークブック、漢字教材、アプリなど、数多くの教材を手がけ、その多くは文化的な 深みと実践的な使いやすさから、日本語教育現場の基盤となりました。
また、包摂的で社会課題に向き合う教育を重視し、多様化し国際的に流動する学習者に対応するため、個別最適化された学習、文化的応答性、学際的アプローチの重要性を強調しました。日本の過疎地域の教育支援、継承語としての日本語教育、教師の専門性向上、難民支援と包摂など、幅広い社会課題をつなぎ合わせ、言語教育はコミュニティと世界を結ぶ架け橋であるべきだと考えていました。
国際的視野に育まれた人生
国境を越える歴史をもつ家族のもとに生まれた津田先生は、幼いころから移民、抵抗、文化交流の物語に親しんで育ちました。鶴見和子やハンナ・アーレントといった思想家の影響を受け、「探究し、表現し、世界と関わり続ける教育」を人生のテーマとしました。
ニューヨークでのボランティア指導、緒方貞子氏のような国際的リーダーとの出会い、そして学問的な師との深い交流が、津田先生の人間性と教育観をより豊かにしました。
MLCの誕生とその礎
Movement for Language and Culture(MLC)は、津田先生が長年抱き続けてきた、「言語教育は文化理解・コミュニティ・国際的な視野のうえに成り立つべきだ」という信念から、2009年に設立されました。
その以前からすでに、教師の育成、カリキュラム開発、教育コミュニティの構築、国際交流の推進に力を注いでおり、MLCはまさにそれらの生涯の取り組みを正式に形にした組織です。
2009年から2025年2月に逝去されるまで、津田先生はMLCの理念と方向性を導き続けました。彼の掲げた、「グローバル市民の育成」「教育者と学習者の支援」「言語と文化が交差する場づくり」という目標は、教材開発、多言語俳句コンテスト、文化交流プログラムなど、MLCのすべての活動の中心にあります。
その志を引き継いで
津田先生の遺した影響は、彼に学んだ無数の生徒、教師、コミュニティの中で今も生きています。
MLCは、次の取り組みを通じて、先生の志を未来へ受け継いでいきます。
文化的背景に根ざした教育教材の開発
教師の学びと専門性の成長支援
多言語・多文化教育プログラムの実施
国際的なパートナーシップと文化交流の促進
グローバル市民の育成と包摂的な学びの推進
津田先生の生涯は、教育とは単なる知識の伝達ではなく、「人と文化、世代をつなぐ営み」であることを教えてくれます。MLCは、先生が築いたビジョンを守り、さらに発展させ、言語と文化が理解・創造・そしてより豊かな世界を育む原動力となる未来 を目指して歩み続けます。